現在、この病気はウシ海綿状脳症(BSE)として知られているが、脳の変性とそれを原因とする致死的な麻痺のために、すぐに「狂牛病」と呼ばれるようになった。
BSEは古典的なウイルスによって引き起こされる病気ではないけれども、これをここに含めた理由は、ウイルスと同じように、この病原因子は感染性があり、細胞形態をとらずに伝染することができるためである。
ここでは、BSEの流行とその原因の探索について述べることにし、BSEの病原体の性質については後で議論する。
BSEはイギリスの乳牛の半分以上を襲っただけでなく、動物園の動物たち(オリックス、クーズー、エランド、ピューマ、チーターなど)、イエネコ、そして最後に人間を襲ったのである。
この流行は一九九三年にピークに達し、一六0、000頭を超える牛がBSEにかかった。
BSEの長い潜伏期、およそ五年は、多くの感染した牛が症状を発現するまえに牛肉用として屠殺されたことを意味しており、実際には、感染した動物の総数はたぶん九00、000頭に近いものと思われる。
この物語は、獣脂の価格が世界的に下がった一九八0年代の初期に始まる。
獣脂は、化粧品業界で使用される脂肪であり、牛や羊の死体を煮詰めて肉骨粉をつくる煮沸処理の副産物である。
獣脂からの利益が低下するとともに、この精製過程において節約が行われ、この脂肪の抽出過程で使用されていた有機溶剤はもはや不要になった。
したがって、これらの溶剤を再利用するための回収も必要でなくなったため、この混合液が高温に保たれる時間もカットされた。
こうした一見無害と思われる変更が、死体のなかの感染性のBSE病原体を生き延びさせることになったのである。
BSEの発生源はすぐ見つかったけれども、感染性病原体の起源は容易に明らかにされなかった。
BSEによく似ているスクレイピーという羊の病気が数世紀にわたってイギリスの羊群に存在していた。
不可避的に、感染した羊の死体は肉骨粉として処理され、それが飼料として牛に与えられていた。
結果的に、スクレイピー病原体が種の障壁をのり越えて牛に感染した可能性はあったわけであるが、それと同じ程度に、牛が彼ら固有のBSE病原体をもっていることも考えられ、それが自然条件のもとでは非常にまれに病気を引き起こしていたため、牛たちが自分たちの肉を食べるまで気づかれずに見逃されてきたという可能性もあるわけである。
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